親知らずを抜くにあたって、歯科・口腔外科の違いがわからず、どちらで抜くべきなのか悩んでしまう人も多いでしょう。特に日本人は顎が小さいことから親知らずに関連したトラブルを抱える人が多いといわれており、身近な問題となっています。
今回は歯科・口腔外科の違いを解説し、親知らずの状態に応じてどこで抜歯すべきかをご紹介していきます。親知らずにも生え方によって様々なタイプがあり、状態によって歯医者で抜ける場合と口腔外科を紹介される場合に分けられます。
この記事の目次
1.歯科と口腔外科の違いとは
1-1 歯科の定義
■歯科の定義と業務
歯科とは、歯もしくは歯に関係した組織に関する診療科と定義されています。具体的には、虫歯の治療や歯並びの矯正、詰め物や入れ歯の製作や装着などが歯科で扱う内容です。また、虫歯の治療のような実際の処置だけでなく、保健指導を行うことも重要な役割です。学校などで行う歯科検診や、歯科衛生士が行う歯磨きの指導などがその例です。
■歯科の分類
歯科は主に4つの診療科に分類され、「歯科」「矯正歯科」「小児歯科」「歯科口腔外科」の名前でクリニックの看板に記載できることが法律で決められています。最近は歯科医院のホームページなどで「美容診療」や「インプラント歯科」といった表記を目にすることがありますが、これはクリニックの看板に書いているわけではないので法律には反していません。
歯科の診療科の中で最も多いのは「歯科」であり、その中でも特に民間のクリニックに勤務する歯科医師の割合が圧倒的に多いです。
1-2 口腔外科の定義
■口腔外科の定義と業務
口腔外科とは、口腔(口の中)や顎、顔面やその周りの疾患に対応する診療科です。歯科の診療科の一つである「歯科口腔外科」がこれに該当します。外科という名前からもイメージがわきますが、口腔外科では口や顎、顔面の手術を行うことも多いです。
■口腔外科で扱う疾患
口腔外科で扱う疾患は、先天的な疾患(生まれつきの病気)と後天的な疾患(生まれつきではない病気)があります。後天的な疾患としては、親知らずに関連したトラブルが代表的です。具体的には、親知らずの抜歯や、親知らずの周りの歯茎が炎症を起こしたときなどが挙げられます。一般的な歯科とは違い、口腔外科は馴染みが薄いようなイメージがありますが、親知らずのトラブルなどの身近な疾患も扱っています。
他には、交通事故やスポーツなどで顎や顔を怪我した際も、口腔外科での処置が必要になることがあります。外科的な処置が中心となりますが、中には口の中の唾液や粘膜に関する内科的な病気を扱うこともあり、口腔外科で扱う対象は幅が広いことが特徴です。
1-3 歯科医師と口腔外科医は違う資格?
■歯科医師と口腔外科医の資格
基本的に、歯科医師と口腔外科医はいずれも歯学部の出身者であるという点で共通しています。正確にいうと、口腔外科医の場合は歯学部・医学部のどちらの出身でも問題ありませんが、歯学部出身の歯科医師が大半を占めています。口腔外科医の中には、歯科医師と医師の2つのライセンスを有する人がいますが、非常に稀なケースです。
また、口腔外科で扱う大がかりな手術では、口腔外科医の他にも形成外科医や麻酔科医などが関与することがあります。
■口腔外科認定医・専門医
歯科医師または医師のライセンスがあれば、口腔外科医として働くことが可能ですが、口腔外科医としての専門性を認定した資格がいくつかあります。
まず、一つ目の資格として「口腔外科認定医」がありますが、こちらは若手の口腔外科医が目標としているもので、一定期間の研修や口腔外科での診療・学術活動に従事した場合に認められるものです。さらに上級の資格になると、「口腔外科専門医」というものがあり、「認定医」の3倍の研修期間が要求されるために取得するのが難しい資格となります。
認定医・専門医のいずれの資格も一度取得すれば終わりではなく、5年ごとに更新していく必要があり、口腔外科医としてのスキルを証明するための資格であるといえます。口腔外科のホームページなどで、口腔外科医の紹介で認定医や専門医の記載があれば、口腔外科医として一定水準のスキルを有していることになります。
2.親知らずはどこで抜くべきか
2-1 歯医者で抜ける親知らず
■親知らずは歯医者で抜けるか
親知らずの痛みや虫歯を指摘されたり、親知らずによって歯並びが悪くなったなどの理由で、親知らずの抜歯を検討する場面もあるでしょう。かかりつけの歯科で抜きたいと考える人が多いですが、親知らずの状態によっては歯医者で抜くことも可能です。
■歯医者で抜ける親知らず
歯医者でも親知らずの抜歯を行うことがあります。基本的には真っ直ぐ生えていて下顎管に接していなければ抜くことは可能です。歯が真っ直ぐ生えていて、歯茎や骨の中に埋まっていなければ、それほど難しい抜歯とはならないため一般的な歯医者でも対応可能なのです。
もし、歯の一部が歯茎に埋まっている場合や、歯が斜めに生えている場合は、歯医者によって対応が異なります。そのまま歯医者で抜いてくれる場合と口腔外科へ紹介される場合があります。
■歯医者から口腔外科への紹介
奥歯の痛みがあり歯医者に行ったところ、レントゲンを撮ってみると歯茎の中に親知らずが埋まっていたということは、非常によくあることです。このように歯が歯茎や骨の中に埋まっている状態を「埋伏歯」といいます。
埋伏歯の抜歯は歯茎を切開する必要があり、外科的な処置が必要となるために一般的な歯科では対応できないことがあります。その場合、レントゲンから得られた情報を元に口腔外科や大学病院への紹介となります。
2-2 口腔外科で抜くべき親知らず
■口腔外科で抜く親知らずの特徴
口腔外科で抜かなければならない親知らずの特徴としては、まず外科的な処置が必要となることが前提です。外科的な処置とは、歯茎を切ったり、骨を削るなどを指します。そのため、口腔外科で抜く親知らずは歯茎や骨の中に埋まっていたり、斜めに生えてしまっている場合が大半で、局所麻酔で処置を行うことが多いのです。
親知らずの状態が複雑で、一般的な口腔外科のクリニックでの対応が難しい場合は、大学病院への紹介となります。
2-3 大学病院での抜歯術
■親知らずを大学病院で抜く場合
親知らずを抜くために大学病院へ紹介される方も多く、一般的な歯科や口腔外科では抜くことのできない抜歯が対象となります。骨を削る量が多い場合や、神経にダメージを与えるリスクがある場合など、難易度の高い抜歯は大学病院で行います。
大学病院では、CTによって歯と神経の位置関係を事前に確かめてから抜歯を行います。大学病院で抜く親知らずには主に次のようなものがあります。
・複数の親知らずを同時に抜く場合
・歯茎や骨の奥深くに親知らずが埋まっている場合
・親知らずが顎の神経の近くに埋まっている場合
・血が止まりにくい病気がある場合
■入院して抜歯するメリット
大がかりな抜歯で、全身麻酔が必要なときには入院する必要があります。全身麻酔や入院のためには、基本的な検査(血液検査、心電図、尿検査など)を行う必要があり、抜歯に関わる手続きが多くなります。
入院して親知らずを抜くメリットとしては、一度に複数の親知らずを抜けるので抜歯が一回で済むこと、全身麻酔によって手術中の痛みを感じずに済むことが挙げられます。全身麻酔であれば、麻酔薬で眠っている間に抜歯が行われることになるのです。
■入院期間
親知らずを抜歯する場合、基本的に入院期間は1泊2日と言われていますが、抜歯する歯の状態によっては長引くことがあります。また、病院によって抜歯術を行う曜日が固定されており、検査や体調管理のために前日から入院しなければいけないと規定されていることもあります。
術後は柔らかいものしか食べることができませんが、入院中はおかゆなどの食事の提供や、痛みに応じて薬の調整も行ってくれるため非常に安心です。
3.まとめ
親知らずを抜く際に知っておいたほうが良い歯科と口腔外科の違いと、どのような状態の親知らずはどちらで抜くべきかをご紹介しました。基本的に親知らずが歯茎や骨の中に埋もれてしまっている場合は口腔外科や大学病院への紹介になることがあります。
経歴
・1990年 日本歯科大学 卒業
・1990年 歯科医師免許取得
・1990年~1995年 医療法人社団医恵会勤務
・1996年 医療法人社団 医康会 ジェイエムビル歯科医院 開設
・1999年 プラトンインプラント受講修了医
・1999年~2001年 社団法人台東区浅草歯科医師会公衆衛生理事
・2011年~2017年 公益社団法人浅草歯科医師会地域医療理事
・2011年~2017年 台東区在宅医療連携協議会委員
・2014年~2015年 日本歯科医師会生涯研修事業修了
・2016年 東京都医師会在宅リーダー研修修了
・2016年10月 東京都歯科医師認知症対応能力向上研修修了
(厚生労働省制定)
・2017年~現 台東区介護認定審査委員
執筆者:
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