時折、Web上で「重曹を使ったオーラルケア」について見かけることがあります。多くの場合、次のような内容が記載されているはずです。
◆重曹水でうがいをすると、虫歯が予防できる
◆重曹で歯磨きをすると、歯が白くなる
重曹は、一般にベーキングパウダーとして使われる白色の粉末です。果たして、本当に虫歯を予防する作用なんてあるのでしょうか? こちらの記事では、「重曹を使ったオーラルケアに意味はあるのか」を検証してみたいと思います。
この記事の目次
1.そもそも、重曹って何…?
重曹の正式な名前は「炭酸水素ナトリウム」です。スーパーマーケット・ホームセンターなどで販売されており、ベーキングパウダー以外にもさまざまな用途があります。まずは、重曹の一般的な使い道を確認してみましょう。
◆入浴剤
◆洗浄剤
◆消臭剤
◆園芸用中和剤
重曹の使い方は多岐にわたります。「泉質―炭酸水素塩泉」の温泉が存在することから入浴剤に配合されるほか、掃除・洗濯、さらには園芸にまで活躍するのです。掃除のときは「研摩剤・洗剤補助剤」に、洗濯では「消臭剤」に使われます。園芸においては、酸性になった土壌を中和するために使用します。
家事・園芸の強い味方になってくれる重曹ですが、注目したいのは「洗浄作用」「脱臭作用」の2つです。洗浄・脱臭が可能なら、「歯が白くなる」「口臭が予防できる」と考えてオーラルケアに活用する人がいるのも理解できる気がします。
2.重曹は虫歯予防に良いの!? 炭酸水素ナトリウムの性質から検証
「洗浄・脱臭に使えるから、虫歯予防に良さそう」というのは、あくまでも印象論です。そこで、重曹―炭酸水素ナトリウムの性質を踏まえて、「本当に虫歯予防の役に立つのか」を検証してみましょう。
2-1 虫歯予防に重曹は役立つか…?
「酸性⇔アルカリ性」を表現するための指標に「pH(ペーハー)」という単位があります。「pH7.0」が中性で、数値が下がるほど酸性、上がるほどアルカリ性です。重曹は「pH8.2」なので、弱アルカリ性になります。
さて、虫歯の原因は「虫歯菌が作り出す乳酸」です。歯の表面―エナメル質は「pH5.5以下の酸性環境」で溶けはじめます。具体的には、エナメル質に含まれる「カルシウム」と「リン」が唾液中に溶けて、虫歯の一歩手前にあたる状態になるのです。この状態を指して「脱灰(だっかい)」と呼んでいます。
ちなみに、「口腔内がpH5.5以下の酸性環境になること」は、決して珍しい現象ではありません。食後、虫歯菌は糖質を酸に変えますし、食品の多くはもともと酸性です。そのため、食後数分で、口腔内は「pH4.5~5.5の酸性環境」になります。
ただ、唾液の働きにより、食後40分くらいで中和され、口腔内は中性に戻ります。ただ、もっと早く中性に戻すことができるなら、そのほうが虫歯リスクは下がるのではないでしょうか?
当然、酸性環境を中和するには、アルカリ性の物質が役立ちます。重曹を溶かした水(重曹水)でうがいをすれば、「pH」は中性に近づくことでしょう。この事実から、「食後すぐに重曹うがいをすること」は虫歯リスクの低減に役立つかもしれません。
◆結論
食後の重曹うがいは、虫歯予防に役立つ可能性がある!
2-2 重曹は、歯を白くしてくれるのか…?
重曹―炭酸水素ナトリウムは、歯磨き粉の研磨剤として配合される成分です。研磨剤に加え、界面活性剤(泡の力で汚れを落とす成分)の作用も持っているので、歯面を清掃する力は高いと考えられます。歯の汚れを落として本来の白さを取り戻す役割は、十分に果たしてくれるでしょう。
ただ、研磨剤は歯に良いばかりではありません。研磨剤の入った歯磨き粉でゴシゴシと磨けば、歯の表面が傷ついてしまいます。当然、歯磨き粉の代わりに重曹を使っても同じことがいえます。
歯の表面―エナメル質が傷つけば「知覚過敏」になる恐れがありますし、歯茎を傷つければ「歯茎の後退」を招きます。重曹歯磨きをする場合は、軽い力で磨くように心がけてください。
ただ、市販の歯磨き粉には「ポリリン酸ナトリウム」など「歯を傷つけずに着色を落とす成分」を配合したものも散見されます。歯を傷つけるリスクを考えると、あえて、重曹で歯を磨く理由はない…というのが実際のところです。
◆結論
重曹に着色を落とす作用はあるが、積極的に重曹を使う理由はない!
2-3 重曹で、口臭は予防できるのか?
重曹は高い脱臭作用を持つことで知られています。たとえば、電子レンジの内部に霧吹きで重曹水をかけてチンすれば、レンジ内を脱臭することが可能です。そのほか、靴に重曹を入れれば靴の悪臭を消せますし、洗剤と一緒に洗濯機に入れれば洋服を脱臭できます。この事実を踏まえれば、口臭の予防・改善にも役立つような気がします。
アルカリ性の重曹が打ち消せるのは、酸性の臭気です。臭いの原因を中和することで、脱臭しているからです。そこで、口臭の原因物質が酸性かどうか…を確認したいと思います。
口臭の原因になる物質の代表格は、VSC(揮発性硫黄化合物)です。具体的には「硫化水素」「メチルメルカプタン」「ジメチルサルファイド」の3種類であり、これらはすべて酸性の気体です。要するに、重曹によって中和できる可能性がある…ということになります。
ただ、「重曹うがい」「重曹歯磨き」で口臭が減少しても、それは一時しのぎに過ぎません。口臭の悩みを解決するには、歯周病・舌苔(ぜったい:舌の汚れ)などの根本原因を取り除く必要があります。
◆結論
一時的な口臭緩和は期待できるが、根本解決にはならない!
3.重曹で虫歯を予防したい!実践するにあたってのQ&A
ここまでの解説内容から、重曹は「大きな効果が期待できるわけではないけれど、正しく使えば若干のメリットはあるかも…」という代物だとわかりました。あえて推奨するほどの理由はありませんが、やってみたいならば、やっても良いでしょう。
そこで、「どうしても、重曹でオーラルケアをしたい!」という人のために「重曹ケアのよくある質問」をまとめることにしました。
3-1 重曹うがいに使う「重曹水」の作り方が知りたい!
重曹自体は食品添加物なので、口に含むだけなら危険はありません。つまり、お好みの濃度で作って大丈夫です。ただ、一般的には「水500mlに対して、重曹3g(小さじ1)」の濃度が好まれるようです。
ちなみに、うがいとはいえ口に入れるわけですから、食品用の重曹を使用してください。清掃用などは避けましょう。
3-2 重曹歯磨きをするにはどうすれば良いのか知りたい!
中には、重曹を粉のままで口に含んで歯磨きする人もいるそうですが、普通の感覚では難しいでしょう。研磨作用が強く出過ぎるのではないか…という懸念もありますし、やはり、粉末を口に入れて歯を磨くのは考え物です。
できれば、「重曹2:植物性グリセリン1」の割合で練った「手作り歯磨き粉」を使用してください。頻繁に磨きすぎたり、力を入れすぎたりすると歯が削れるので、くれぐれもほどほどにお願いします。
3-3 重曹でオーラルケアをするときの注意点はあるの?
塩分の過剰摂取が不健康であることは、ご存じだと思います。しかし、実際のところ、食塩を摂りすぎると問題が起きる理由は「ナトリウムの過剰摂取」にあるのです。「食塩=塩化ナトリウム」のナトリウムがカギだったというわけです。
さて、重曹の正式名称を再確認してみると、「炭酸水素ナトリウム」です。ナトリウムが含まれていますから、重曹の過剰摂取は「塩分過多」と同じ状況を招きます。なので、重曹水などを使用するときは、飲みこまないようにしてください。
4.まとめ
以上のように、重曹には一定のオーラルケア作用が期待できそうです。ただし、きちんと製品化された歯磨き粉・洗口液などと比較すれば、限定的な作用にとどまります。「昔から使われている成分が良い」というナチュラリスト志向を止めはしませんが、重曹を盲信することは避けてください。あくまでも、日々の歯磨きにプラスアルファで加えても良い…程度のケア方法になります。
出身校:神奈川歯科大学
卒業年月日:2009年3月
2010年 新潟大学付属医歯学総合病院 勤務
2011年 神奈川歯科大学付属横浜クリニック 入局
2013年 斉藤歯科クリニック 院長就任
電話:03-6459-5975
執筆者:
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