口臭の原因の多くは実は虫歯が原因だと言われています。『私はきちんと虫歯の治療を済ませているから大丈夫』と思っている方でも安心はできません。なぜなら以前きちんと治療した歯でも、時間が経つにつれ、詰め物の下や横などに虫歯が進行している場合があるからです。
また口臭はとてもデリケートな問題ですから、もしあなたに口臭があったとしても、周りの人は言えないでいるのかもしれません。最近歯医者に行ってないな…と思っている方は、ぜひこの記事を参考にセルフチェックしてみてくださいね。
この記事の目次
1.虫歯が口臭を引き起こす理由
歯の表面、エナメル質の初期虫歯が悪化すると、いずれは象牙質や神経にまで達するようになります。すると、虫歯菌が出す酸によって歯が溶けて発酵するため、しだいに悪臭を放つようになります。
1-1 虫歯の穴にたまった汚れが原因
エナメル質にできた初期虫歯をそのままにしていると、やがて虫歯が悪化し、歯が欠けたり穴が開いたりします。開いた穴には食べカスが詰まりやすくなり、たまった食べカスが腐ることでガス(腐敗臭)が発生し口臭になります。虫歯の穴に気づいたときに、すぐに歯医者に行き治療をすれば良いのですが、放置していると、溜まった食べカスを栄養にして、細菌がさらに酸を発生させ、歯を溶かし、虫歯が広がっていきます。
口臭が出るほどの虫歯であれば、かなり進行している恐れがあります。できるだけ早く歯医者を受診することをおすすめします。
1-2 詰め物や被せ物の中の細菌が原因
毎日丁寧に歯磨きしているし、虫歯も見当たらない…でも、なぜか最近、お口の臭いが気になる…そんな方は、数年前に治療した歯の詰め物や被せ物の下で、ひそかに虫歯が進行しているかもしれません。詰め物や被せ物は時間が経つにつれて劣化し、すきまができてきます。そこから細菌が侵入し、詰め物や被せ物の中で繁殖、発酵することによってひどい悪臭を放つことがあるのです。
金属の詰め物の寿命は平均5年、被せ物は7年と言われています。原因不明の口臭に悩んでいる方は、一度歯医者でチェックしてもらいましょう。詰め物や被せ物の劣化による虫歯が見つかった場合には、虫歯の再治療と詰め物、被せ物を取り換える処置が取られます。
1-3 歯の神経が腐ったことが原因
初めはしみたり、ズキズキ痛んだりしたのに、いつの間にか痛みを感じなくなった歯はありませんか?もしかしたらその歯の神経はすでに死んでいるかもしれません。虫歯をいつまでも放置していると、細菌が歯の神経にまで達して、やがて神経が死んでしまうのです。
細菌に侵され死んだ神経は、腐ってガスを出し、これが口臭の元になります。神経が死んだ歯に気づかず放置していると、細菌が神経を越え、周りの骨や歯茎まで溶かし始めます。そうなる前に腐った神経を取り除いて消毒し、新たな菌が入り込まないよう薬を詰める治療が必要です。心当たりのある方は早めに受診しましょう。
1-4 歯の根の先に膿ができたことが原因
過去に神経を取る治療を行った歯に良く起こるのが歯根膿胞(しこうのうほう)という病気です。歯根膿胞とは、神経が入っていた空間に細菌が入り込んで繁殖し、膿が根の先に溜まって袋状になる病気です。歯根膿胞になり、膿が増えると骨に穴が開いて歯茎におできができることがあります。
このおできがつぶれたり、歯茎が腫れて通路ができると、膿が口の中に溢れて強烈な口臭を発生させます。歯根膿胞には自覚症状があまりないため、歯医者でレントゲンを撮った場合に偶然発見されることが多いようです。膿胞が小さい場合には、膿を取り除き、根の中を消毒し、薬を詰めることで治ることがありますが、症状が改善しないときには膿の袋を取り除く切開手術や、抜歯が必要になることがあります。
1-5 親知らずの虫歯が原因
親知らずは一番奥の狭いところに生えてくるうえ、変な方向から生えたり、歯茎がかぶさっていたりすることが多いため、きちんと歯磨きをしようとしてもブラシが届きにくく、食べカスが溜まって虫歯になりやすい歯です。また目立たない場所に生えているため、初期の段階では虫歯に気づきにくく、知らないうちに悪化して口臭を発生させやすい歯だと言えます。
さらに親知らずが横やななめから生えている場合には周りの歯に食い込んで、歯の根元を虫歯にしてしまう恐れもあります。リスクが高い親知らずの場合、抜歯をすすめられるケースもあるようです。
2.虫歯による口臭の対処法
虫歯による口臭の改善にはどんな方法があるのでしょうか。ここでは、セルフケアとプロのケアの両面から、口臭改善の対処法についてご紹介します。どうぞ参考にしてください。
2-1 プロ(歯科医)による虫歯や神経の治療を受け臭いの元を断つ
口臭予防グッズを使い、一時的に臭いをごまかすのは得策ではありません。虫歯による口臭を改善するために、きちんと歯医者にかかり、臭いの原因を取り除きましょう。エナメル質の初期虫歯で口臭が発生することはまずありません。逆に言えば、口臭が発生するほどの虫歯であれば、早急に治療をしなければ、歯を失う可能性が高いということです。
特に神経まで達した虫歯は治療が大変難しく、手術や抜歯が必要になるケースも多くなります。虫歯は悪化すればするほど口臭もひどくなり、治療も困難になります。虫歯かなと思ったときに、すぐに歯医者にかかることで口臭の発生を防げるだけでなく、歯を失うリスクを大きく減らすことができます。また虫歯が悪化し、ひどい口臭がするようになった場合でも、歯医者で適切な処置を受けて細菌の繁殖を抑えれば、口臭の多くは改善に向かいます。
2-2 こまめなセルフケアと定期的な歯科検診
口臭改善のために家庭でできることは、第一に正しく歯を磨くことです。虫歯の悪化を食い止め、これ以上口臭がひどくならないよう正しい歯磨きを心がけましょう。歯間の汚れにはデンタルフロスや歯間ブラシの利用がおすすめです。
また,うがいやデンタルリンスなども活用し、できるだけ口内細菌の増殖を抑えましょう。近年では、虫歯予防に力を入れる歯医者が増え、歯科衛生士によるブラッシング指導やフッ素塗布を行うところが増えています。定期検診を受け、歯磨きがきちんとできているか、虫歯はないか、あればどの程度なのか、口臭はどうなのかプロにしっかり確認してもらいましょう。
気づきにくい詰め物や被せ物の不具合や歯根膿胞、親知らずの虫歯などが定期検診で見つかれば、将来ひどい口臭に悩まされずに済みます。また口臭の元になるプラーク(歯垢)や歯石をクリーニングで落としておけば、口臭の改善に役立つだけでなく、爽やかな息を手に入れることができます。トラブルが起こる前にこそ、ぜひ歯医者を積極的に利用してください。
2-3 口臭外来の受診
きちんと虫歯を治療し、定期検診に行って家庭では正しいセルフケアを行っているのに、口臭が改善しない場合は、虫歯以外に原因があるかもしれません。そのような方は、一度口臭外来にかかることをお勧めいたします。口臭外来では、丁寧な問診と精密検査で口臭の原因を探り、口臭改善のための様々な治療を行っています。口臭外来では実際には何の口臭もないのに、臭いがあると感じる自臭症の治療も行っています。
歯医者できちんと治療をしても口臭が改善されず、お悩みの方は一度受診してみることをおすすめします。
3.今すぐできる口臭改善法
忙しくてなかなか通院できない方には、以下のようなセルフケアがおすすめです。しかし色々試しても口臭が改善しない場合には、やはりプロである歯医者さんへの相談を速やかに検討してください。
3-1 ガムやキャンディー
唾液にはお口の中を洗い流し、きれいにする働きがあります。ガムやキャンディーを口に含んでおけば、自然と唾液が出てくるため、口臭改善にとても効果があります。中でもキシリトールガムは、虫歯の予防にもなるため、一石二鳥です。ガムやキャンディーを利用した口臭予防は、手軽にでき、職場や学校、人前でも口臭予防と悟られずに済むため、心理的にも負担が少ない方法です。
3-2 マウスウォッシュ
一日に2~3回、マウスウォッシュでうがいをすると、お口の中がさっぱりするだけでなく、口臭改善に効果があります。ただし使用するマウスウォッシュはアルコールが入っていないものがおすすめです。アルコール入りの方が殺菌効果に優れ、口臭予防に役立ちそうですが、実はアルコールには、唾液の分泌を抑える働きがあるため、かえって細菌が増殖し、口臭を悪化させる恐れがあるからです。
3-3 舌磨き
丁寧に歯磨きをしても口臭が気になる方は、舌の汚れ、舌苔(ぜったい)が口臭の原因になっている可能性があります。一度舌のお手入れを試してみることをおすすめします。舌の汚れを取るのに歯ブラシを使うと、舌が傷つく恐れがあります。必ず専用のブラシを使って行いましょう。舌を軽く付き出し、奥から手前にかけて、優しく舌の汚れを取っていくのがコツです。舌をきれいにするのは、一日一度で十分、朝起きたときに行うと効果的です。
4.まとめ
気づいていても、なかなか他人には指摘しづらいのが口臭です。もしかして私の口も臭っているのでは?などと悩む前に、きちんと虫歯を治療し、口臭を改善しましょう。また定期的な歯科検診は、未来の口臭リスクを減らし、歯と全身を健やかに保つ大切な鍵です。
毎日のセルフケアとプロのメンテナンス、二つが両立してはじめて爽やかな息と健康が手に入ります。日頃から積極的に歯医者を利用し、クリーンな息で生き生きとした毎日を過ごしましょう。
経歴
1968年 東京歯科大学 卒業
1968年 飯田歯科医院 開院
1971年 University of Southern California School of Dentistry(歯内療法学) 留学
1973年 University of Southern California School of Dentistry(補綴学・歯周病学) 留学
1983年~2009年 東京歯科大学 講師
現在に至る
執筆者:
歯科+では、読者の方々のお口・歯に関する”お悩みサポートコラム”を掲載しています。症状や原因、治療内容などに関する医学的コンテンツは、歯科医師ら医療専門家に確認をとっています。