覚えておけば怖くない!歯の麻酔について、特徴や種類とは

    歯医者さんで歯の治療や抜歯をするときに、麻酔をした経験のある方も多いのではないでしょうか。しかし、「これから麻酔をします」とは伝えられても、実際麻酔の前に歯医者さんから麻酔についての詳しい説明を受けた、という方はほとんどいないでしょう。

    ここでは普段細かく説明されることの少ない麻酔について、「歯の治療でなぜ麻酔を打たなければいけないのか」、「麻酔にはどんな薬が使用されているか」などを詳しく説明していきます。

    この記事の目次

    1.歯の局所麻酔の種類

    局所麻酔というのは、範囲が限られた場所に使用する麻酔のことで、3つの種類に分けられます。

    1-1 表面麻酔

    表面麻酔は、麻酔の注射をする歯茎の表面部分にかける麻酔で、皮膚の粘膜の近くを麻痺させ、注射の痛みを軽減させます。全く痛くなくなるわけではありませんが、針を刺すときの痛みを感じなくするのに有効な方法です。膿瘍切開や、歯石のクリーニング、乳歯の抜歯時などにも使用します。

    1-2 浸潤麻酔

    浸潤麻酔は、痛みを取りたい部分に麻酔薬を注射する方法で、歯医者さんで最も一般的に行われています。粘膜下、歯肉に注射し骨内に薬をしみこませて神経を麻痺させます。虫歯の治療、抜歯、神経の治療、インプラント手術、腫瘍切除などに使用します。

    1-3 伝達麻酔

    伝達麻酔は、神経が分かれる部分に少量の麻酔を注射することで、治療をする場所から離れた部分まで広範囲を麻痺させることができます。麻酔がききにくい骨が厚い下あごの奥歯の治療をするときに、浸潤麻酔に加えて使用されることが多く、局所に炎症がある場合でも用いることができます。親知らずの抜歯、一度にたくさんの歯の治療をするとき、骨削除や手術の時に使用します。

    2.麻酔がききにくい場合がある

    麻酔がまるできかないということはありません。しかし体質や症状、その時の精神状態、場所などによって麻酔がききにくいことがあります。

    2-1 麻酔の場所

    下あごの奥歯は周囲の骨が硬く厚いため、麻酔薬が浸透しにくく麻酔がききにくい場所です。基本伝達麻酔を使う必要性は少ないですが、使用することもあります。

    2-2 歯茎に炎症がある

    歯周病などによる歯茎の腫れがあるとき、膿がたまっているとき、神経が炎症を起こしているときなどは麻酔がききにくいです。これは酸性になる膿の性質によるものです。アルカリ性の麻酔が、酸性の体内に入ったとき中性になることで麻酔の効果が下がってしまうのです。

    2-3 お酒をたくさん飲む人

    麻酔とお酒とはあまり関係ない、もしくは解毒作用が活発なので麻酔薬も解毒してしまい麻酔がききにくい、など諸説あります。しかし、飲酒習慣だけでなく患者ひとりひとりによって麻酔の必要量は違います。状態に合わせて適切に調整できるので心配ありません。

    3.痛みを感じにくくする工夫

    歯医者さんでは麻酔の痛みを軽減するためにさまざまな工夫をしています。

    3-1 麻酔の方法の工夫

    麻酔注射の痛みを抑えるための表面麻酔を使用することがあります。また、通常の注射器でなく、ピストルのような形をした電動麻酔注射器を使用しているところもあります。一定のスピードで麻酔液を注入することができるため、圧痛を軽減できます。

    3-2 注射液の温度を管理する

    麻酔注射が痛い原因は、針が刺さることよりも、冷たい麻酔薬を注入することにあります。麻酔薬をあらかじめ体温と同じくらいの温度に温めておく歯医者さんがありますが、これは、痛みの軽減につながる工夫なのです。

    3-3 細い注射針を使用する

    注射の針は細ければ細いほど痛点に触れにくく痛みを感じにくいため、極細の注射針を使用しています。

    4.安全に受ける方法

    麻酔の効果を引き出し、安全に受けるためには、治療の前に自分の体質や、病歴などを歯医者さんにきちんと伝えておくことが大切です。

    4-1 病歴やアレルギー歴を伝えておく

    局所麻酔薬でアレルギー反応を起こすことは極めてまれですが、アナフィラキシーショックを起こすことがあります。また、不安や痛みによってめまいや吐き気などが起こることもあります。局所麻酔薬の多くにはアドレナリンが含まれています。

    心臓疾患や高血圧の方は、血圧上昇や動悸が表れることがあるので、治療前に医師に伝えましょう。アドレナリンを含まない麻酔薬も開発されていますので麻酔について不安があるかたは事前にきちんと医師に伝えておきましょう。

    4-2 きかない場合にはすぐ伝える

    麻酔がなかなかきいてこないときや、痛みがひどい場合は医師にすぐ伝えましょう。通常は麻酔薬を追加し対応してくれます。しかし、それでもきかないときは、歯に薬を詰める、炎症抑える薬を服用するなどして、次回に持ち越すこともあります。

    5.麻酔治療後の注意

    麻酔がきいているうち、また麻酔をした後には気を付けないといけないことがあります。

    5-1 麻酔はすぐには切れない

    歯医者さんで使用する表面麻酔は、通常10分ほどで切れます。浸潤麻酔は1~3時間、伝達麻酔においては3~6時間くらいきいています。麻酔注射をした後には口や唇をかんでしまうことがあるので気を付けましょう。患部にはなるべく触らず、食事は麻酔が完全に切れてからとるようにします。

    5-2 麻酔が切れた後の痛みの対処

    麻酔が切れた後に、治療した部分が傷むことがあります。その場合は、早めに鎮痛剤などを服用しましょう。通常痛みが出そうな場合には歯医者さんが鎮痛剤を処方してくれます。

    5-3 口内炎になることがある

    麻酔注射をした部分が炎症を起こすと口内炎になってしまいます。細菌が入ってしまうことが原因です。口内炎に効果のある薬を使用し、なるべく触らないようにして治しましょう。

    6.局所麻酔以外の麻酔

    歯科恐怖症の方には、精神鎮静法という麻酔の方法があります。ここでは3種類の麻酔を紹介します。

    6-1 吸入鎮静法

    笑気ガスという麻酔を鼻から吸入します。亜酸化窒素と酸素で構成されている安全なガスです。5分程度でリラックス状態になり、頭が少しボーッとするのでその間に治療をします。治療が終わり吸入をやめれば元に戻ります。

    6-2 静脈内鎮静法

    これは腕の静脈に麻酔薬を点滴する方法で、意識はあるけれど眠ったような状態になります。その間に治療します。治療が終わってから効力をなくす薬剤を点滴すると目が覚めてきます。1~2時間の休憩が必要です。

    6-3 全身麻酔

    大がかりな外科手術やインプラント、矯正手術などに使用します。吸入、点滴、併用の3種類の方法で、まったく意識のない状態になります。呼吸を助ける気管挿管が必要になります。

    7.まとめ

    歯医者さんで使用する麻酔には、それぞれの役割や特徴があり、虫歯の治療には欠かせないものになっているといっても過言ではありません。歯医者さんに行くのはなかなか気が進まないものですが、さまざまな麻酔の工夫のおかげで痛みを感じにくくなっています。気になる症状があったら早めに歯医者さんへ行きましょう。

    監修日:2016年04月29日
    野崎 康弘院長監修
    経歴・プロフィール

    経歴
    ・1990年 日本歯科大学 卒業
    ・1990年 歯科医師免許取得
    ・1990年~1995年 医療法人社団医恵会勤務
    ・1996年 医療法人社団 医康会 ジェイエムビル歯科医院 開設
    ・1999年 プラトンインプラント受講修了医
    ・1999年~2001年 社団法人台東区浅草歯科医師会公衆衛生理事
    ・2011年~2017年 公益社団法人浅草歯科医師会地域医療理事
    ・2011年~2017年 台東区在宅医療連携協議会委員
    ・2014年~2015年 日本歯科医師会生涯研修事業修了
    ・2016年 東京都医師会在宅リーダー研修修了
    ・2016年10月 東京都歯科医師認知症対応能力向上研修修了
    (厚生労働省制定)
    ・2017年~現 台東区介護認定審査委員

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    執筆者:歯科+編集部

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